前回,高血圧の診療に家庭血圧の測定が大変役立つことをお話ししましたが,今回は,24時間血圧測定(自由行動下血圧測定,ambulatory blood pressure monitoring: ABPM)をご紹介します。これは,上腕部に巻いたカフが15~60分おきに自動的にしまり,腰に装着した記録計にデータが記録される携帯型の血圧計で測定します。


患者さんは外来で血圧計を装着し,普段通りに生活し,翌日再来院し,測定データが記録された装置をはずします。座って安静にした状態で同一時間にはかる家庭血圧に対し,ABPMは外出先や睡眠中でも測定することが可能で,血圧の日内変動を知ることができます。高血圧には持続性の高血圧だけでなく,白衣高血圧,仮面高血圧,早朝高血圧,夜間高血圧,ストレス下高血圧など,いろいろな変動パターンがあり,ABPMはそれらの把握に有用です。

白衣高血圧:診察室で血圧が上がる現象で,高血圧の方だけでなく正常血圧の方にも見られます。正常血圧の場合には治療がいりませんので,ABPMで確実に区別する必要があります。

仮面高血圧:診察室血圧が正常で,診察室外の血圧が高い状態で,高血圧となる時間帯によって,早朝高血圧,ストレス下高血圧,夜間高血圧があります。

早朝高血圧:夜間高血圧から移行するタイプと朝に血圧が急上昇するサージタイプがあり,ABPMではこの2つのタイプを区別できます。サージタイプは脳卒中や心筋梗塞のリスクが高いと考えられます。

夜間高血圧:通常,夜間の血圧は昼間より10-20%低く(dipper)なりますが,10%以下の場合(non-dipper)と夜間の方が高くなる場合(riser)が夜間高血圧です。睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,糖尿病などのリスクのある方がこのパターンを示すことが多くなります。また,夜間血圧が昼間の血圧より20%以上下がるextreme-dipperも血圧サージタイプのリスクから注意が必要です。

ストレス下高血圧:診察室血圧は正常でもストレス環境にある職場や家庭で高血圧になる場合で,肥満や高血圧家族歴のある方に多くみられます。

上にあげた血圧の変動パターンは,診察室血圧,家庭血圧の測定からは判定不能で,ABPMでのみ診断できます。将来の心血管疾患のリスクを減らすためには24時間にわたった血圧コントロールが必要ですが,そのためにもABPMでご自分の血圧変動パターンを知ることは重要です。

平井クリニック