血液凝固阻止剤「プラザキサ」による重篤な出血に関する注意喚起が厚労省から出されました。この薬は,心房細動のある患者さんで血栓による脳卒中や全身の塞栓症が起きないように,血液を固まりにくくする作用があります。一方,出血があった場合には,当然のことながら,止血しにくくなります。

血液凝固阻止剤としては,以前から,「ワーファリン」が用いられてきました。こちらは,効き目が食事や他の薬の影響を受けやすいため,納豆,青汁,クロレラなどの食事制限があり,通常は1-2ヶ月毎の血液検査(PT-INR)で患者さん毎に薬の量を調整する必要があります。

プラザキサは食事制限が必要なく,薬の量が固定で,ワーファリンのような煩雑さがありません。さらに,本邦発売前の国際共同試験では,脳卒中,全身塞栓症,頭蓋内出血の発症率が,ワーファリンに比べ少なかったという成績でした。

以上の利点から,平成23年3月の発売時にはかなり期待が大きかったわけですが,8月11日の時点で,64000人中(推定),重篤な出血の副作用が81人,うち5人が死亡という状況になり,注意喚起が出されるに至りました。

これは,プラザキサがワーファリンに比べ,実は副作用が多いということではなく,多くの医者が多くの患者さんに薬を出すようになると,臨床試験では分からなかったことが明らかになるということだと思います。

先に述べたように,ワーファリンはPT-INRを目安に投与量を調節するのが煩雑な反面,薬の効いている程度が検査でわかる利点があります。これに対して,プラザキサは薬の効果の変動が少ないため投与量は固定で簡便ですが,薬の効果を見る一般的な検査がありません。鼻出血,皮下出血,歯肉出血などの出血があって始めて効きすぎを疑うことになります。

腎臓の働きが低下している人,高齢者,消化管出血の既往のある人などは慎重投与となっていますが,これらに当てはまる場合は,ワーファリンでこまめに検査をして投与量を調節したほうが,当面は安全かもしれませんね。

平井クリニック